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佐賀地方裁判所 平成6年(レ)3号 判決 1994年8月26日

控訴人

田中敏隆

右訴訟代理人弁護士

渡邊和也

被控訴人

国民金融公庫

右代表者総裁

尾崎護

右代理人

山田和男

右訴訟代理人弁護士

矢野宏

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の主位的請求にかかる訴えを却下する。

三  控訴人被控訴人間において、被控訴人が控訴人に対し、昭和五五年一月二八日の連帯保証契約に基づく金二八四万円、並びに、うち金一四四万円に対する昭和五五年一一月二六日から同年一二月二五日まで年8.1パーセントの、同月二六日から支払済みまで年14.5パーセント(年未満の期間については一日0.04パーセント)の各割合による金員、及びうち金一四〇万円に対する昭和五五年一一月二六日から同年一二月二五日まで年7.6パーセントの、同月二六日から支払済みまで年14.5パーセント(年未満の期間については一日0.04パーセント)の各割合による金員の各支払請求権を有することを確認する。

四  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者双方の申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の主位的請求及び予備的請求にかかる各訴えをいずれも却下する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、被控訴人が控訴人に対し、主文記載の連帯保証契約に基づく各債権(別紙請求原因一、二)の残元金と各約定の利息・遅延損害金について、主位的に給付請求をし、予備的に右各債権の存在の確認請求をした事案である。

一  争いのない事実等

1  被控訴人と控訴人との間には、佐賀簡易裁判所が、(1)同裁判所昭和五八年(ハ)第一四六号貸金請求事件につき、別紙請求原因一に基づき昭和五八年六月二八日に言い渡した「控訴人、A及び庄島國夫は、被控訴人に対し、連帯して金一四四万円とこれに対する昭和五五年一一月二六日から同年一二月二五日まで年8.1パーセントの、同月二六日から支払済みまで年14.5パーセント(年に満たない端数期間については一日0.04パーセント)の割合による金員を支払え。訴訟費用は右控訴人らの負担とする。この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。」との主文の判決(昭和五八年八月一八日確定)、(2)同年(ハ)第一六一号貸金請求事件につき、別紙請求原因二に基づき同年六月九日に言い渡した「控訴人、Aは、被控訴人に対し、連帯して金一四〇万円とこれに対する昭和五五年一一月二六日から同年一二月二五日まで年7.6パーセントの、同月二六日から支払済みまで年14.5パーセント(年に満たない端数期間については一日0.04パーセント)の割合による金員を支払え。訴訟費用は右控訴人らの負担とする。この判決は、仮に執行することができる。」との主文の判決(昭和五八年六月二五日確定)が存在する(甲一八、一九)。

2  本件請求における被控訴人の控訴人に対する請求及び請求原因事実は、右二つの判決の各請求原因事実に基づく各請求を併合したものと同一である(弁論の全趣旨)。

3  被控訴人は、前記確定判決によって確定された各請求権は平成五年六月二五日、同年八月一八日の経過により、消滅時効期間が満了することになるので、控訴人に対する請求権の消滅時効を中断させるため、本件訴訟を平成五年六月二一日提起した(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  被控訴人は、控訴人に対し、時効中断のために、前訴と同一の給付判決を求めて訴(再訴)を提起することが許されるか。

2  前訴給付判決に係る債権と同一の債権について、時効中断のために確認訴訟を提起することが許されるか。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

債権者が既に給付判決を得ているのに、さらに同一の訴訟物について給付判決を求めることは、原則として訴の利益を欠き許されないというべきであるが、訴訟記録及び判決原本の滅失している場合、あるいは債務者が所在不明によって時効中断のために他に簡易な方法を欠く場合など、裁判上の請求によらなければ時効中断の目的を達し得ないような特別の事情が認められる場合に限り、時効中断のためにする前訴と同一内容の給付判決を求めることは許されると解すべきである{大審院昭和六年一一月二四日判決(民集一〇巻一二号一〇九六頁参照)}。

被控訴人は、権利が時効によって消滅することを防ぐため再度の裁判上の請求をする必要性が認められる以上、すなわち、時効中断の利益が認められる以上、他に時効中断の方法があるかどうかにかかわらず、同一の給付判決を求めて再訴する場合にも訴の利益が認められると主張するが、同一の債務名義が成立してしまう結果に至ること、かえって、請求権の存在を確認する判決があれば、前訴判決の時効消滅が避けられ、前訴判決を以て執行することができるから、債権者の保護としては足り、本訴において改めて同一の給付の主文を求める必要はないこと等を考慮すると、被控訴人の主張は採用できない。

これを本件についてみるに、口頭弁論終結時において控訴人にはみるべき資産は存在せず、また、被控訴人の控訴人に対する本訴請求以外の債権について、被控訴人は控訴人から分割で任意弁済を受け続けている(当事者間に争いがない。)が、かかる事情は前記再訴が認められる特別の事情には該当せず、他に主張立証のない本件では、被控訴人が控訴人に対して給付判決を求めることは許されないというべきである。

二  争点2について

確認訴訟の場合は、前記特別の事情がなくても、権利が時効によって消滅することを防ぐ必要性がある以上、訴の利益(確認の利益)は認められるものというべきである。なぜなら、確認訴訟の場合は、給付訴訟の場合と異なり、前訴給付判決と全く同一の内容の判決を求めているものではなく、あくまでも前の給付判決を前提として後訴提起時での請求権の存在の公証を求めているにすぎないのであって、同一の訴訟物について数個の債務名義が成立してしまう結果に至ることもないからである。

控訴人は、時効中断のためにする確認請求の場合も、右にみたような債務者の所在不明などの特別の事情があり、そのため前訴確定判決による強制執行が著しく困難あるいは無益であるという事情がなければその請求に訴の利益はないと主張するが、債権者には強制執行をしなければならない義務はないから、控訴人の右主張は採用できない。

そこで、これを本件についてみるに、前訴各判決によって確定された請求権は、平成五年六月二五日、同年八月一八日の経過により、消滅時効期間が満了することが認められるから、被控訴人が右請求権の消滅時効を中断するために再度裁判上の請求をする必要性があることは明らかであり、前記特別の事情が存するかどうか検討するまでもなく、被控訴人が、控訴人に対して有する各請求権の存在の確認を求める予備的請求にかかる訴えには、訴の利益が認められるものというべきである。

三  以上によれば、控訴人の主位的請求にかかる訴えについては、訴の利益は認められず、これを却下するのが相当であるが、予備的請求にかかる訴えについては被控訴人に訴の利益(確認の利益)が認められ、また、被控訴人の各請求権の発生原因事実は、前訴各判決によって認定された事実であって、その各判決の既判力によって本訴判決の前提となり、そのまま肯認され、被控訴人の控訴人に対する予備的請求は理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下順太郎 裁判官 一木泰造 裁判官 遠藤俊郎)

別紙請求原因一、二<省略>

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